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●「李儒的異聞・烙・」


 

・焔焔・

焼き爛れるのは、自己と理性。
崩れた心の恐ろしさを、身を以って知る。

邪気払いの薬酒と偽った毒薬は、そうと見破られ、劉弁の手に渡る事はなかった。
拒む口唇に、無理矢理流し込もうと彼を押さえ付ける。
飲む素振りを見せないようなら、どのような手段を使ってでも。と。
劉弁の瞳から涙が零れる様子さえ、どこか遠い出来事だった。
それほどに、李儒の心は此処にあらずと言った様子。
言うなれば、恐怖と恍惚の間を彷徨うような心地だ。

暴れる劉弁の身体を一度柱に叩きつけると、痛そうな呻き声を上げて暴れるのを止める。
「…鬼に魂を売り…焔に、身を滅ぼされたな」
不意に。
震える声で、小さな音で。
劉弁は哀れむような瞳で李儒を見遣って、そう呟く。
諦めの表情と、憐憫を湛えた瞳。
言葉の真意を汲み取れずに。
眉を顰めた李儒の手から、毒薬をそっと受け取った。
「何を…」
盃を取り返そうとする李儒よりほんの少し早く。
劉弁は震えたまま、蒼白な指を絡めた盃を干した。
取り落とした盃が、耳障りなほど大きな音を立てて床に転がり。
その後、刹那の沈黙が降りる。
思わぬ光景に呆然としていると、不意に劉弁が激しく噎せ返って。
絶叫ともつかぬ声と苦痛に歪む表情。
まるで、幻影を見ているかのように現実味を帯びない目の前の惨劇。
ただ、じっと傍らに立つ李儒に、劉弁は。
「…後悔するが良い」
苦痛に喘ぐ合間に、そう囁いて。
やがて、糸が切れたかのように静止した。

たった今息絶えた彼は、全て気づいていたというのか。
今の彼は董卓に心酔し、ただその為だけに動いている事に。

しかしながら。


「後悔だと?」
…笑わせる。

劉弁は、最期まで李儒の本質を勘違いしていたらしい。
それが酷く滑稽で、思わず笑みが零れた。


仄暗い焔に全てを呑まれた今。
己が焼け爛れた傀儡である事は自覚している。
ただ、今迄と違うのは魂を持った傀儡であるということ。
ただ、彼だけの為に存在しているとしても、それで良い。

「するものか…後悔など」

今、李儒本人を満たす気持ちは、恐らく「達成感」。
そして「生きている」という実感と悦び。

長い年月をかけて崩れた心は、いとも容易く暗い焔に呑み込まれていた。

つづく

 
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